第135回 ヨーロッパ音楽都市巡り パリ その4 オペラ座3

第135回 ヨーロッパ音楽都市巡り パリ その4 オペラ座3

2023年01月04日(水)11:00 AM

 今回はガルニエ宮の中に入って行きましょう。まず正面にそびえるのが、見事な白大理石の大階段です。優雅な緑と赤の欄干と美しい彫刻が我々を出迎えてくれます。踊り場から2つに分かれて大休憩室と呼ばれる大きな社交場の応接室へと上がっていきます。

正面の大階段 開演時にはもっと金色に輝いています



 階段の上にもアポロンの勝利がテーマの天井画が広がり、自然光を取り入れる窓が広がります。

踊り場から上へ分かれる階段



 客席の造りはイタリア風の典型的な馬蹄式で、1979席を有します。ワインレッドがベースの平土間とサイドはバルコニー席、その上3層のボックス席とさらに天井桟敷席が客席を見下ろしています。

大階段上の天井画と天窓



 有名な大シャンデリアは、ガルニエ設計によるブロンズとクリスタルの見事な芸術品ですが、1896年に部品の破損によって客席に落下、死者が出る大ニュースとなってしまいました。前述しましたが、それに事件によってルルーのインスピレーションが刺激され、「オペラ座の怪人」が書かれたのです。

 シャンデリアの上には見事な天井画がありますが、開場当時は、ジュール=ウジェーヌ・ルヌヴー(1819-1891)の伝統的な歴史画「昼と夜のミューズと時間」が描かれていました。しかし、時代遅れと判断した文化大臣のマルローが、舞台美術監督のマルク・シャガール(1887-1985)に全面的な作り直しを依頼。色彩が独特で抽象的な画風に、賛否両論の嵐が吹く中、7カ月かけて完成させ、1964年9月23日公開され、今も我々を見守っています。

シャガールの天井画とシャンデリア



 このシャガールの天井画は、14人の作曲家によるオペラやバレエ等のシーンが描かれているのです。クロード・ドビュッシー(1862-1918)のオペラ「ペレアスとメリザンド」、モーリス・ラヴェル(1875-1937)のバレエ「ダフニスとクロエ」、エクトル・ベルリオーズ(1803-1869)の劇的交響曲「ロメオとジュリエット」、ジョルジュ・ビゼー(1838-1875)のオペラ「カルメン」、アドルフ・アダム(1803-1856)のバレエ「ジゼル」、ジャン=フィリップ・ラモー(1683-1764)のオペラ=バレ「優雅なインドの国々」とここまでがフランス人です。

 あとは、モデスト・ムソルグスキー(1839-1881)のオペラ「ボリス・ゴドゥノフ」、イーゴリ・ストラヴィンスキー(1882-1971)のバレエ「火の鳥」、ピョートル・チャイコフスキー(1840-1893)のバレエ「白鳥の湖」の3人がロシア人、2大オペラ作曲家のリヒャルト・ワーグナー(1813-1883)の楽劇「トリスタンとイゾルデ」、ジュゼッペ・ヴェルディ(1813-1901)のオペラ「椿姫」、クリストフ・グルック(1714-1784)のオペラ「オルフェオとエウリディーチェ」、最後に、ファザードに7人の胸像の中にもいた偉大な音楽家2人、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-1791)のオペラ「魔笛」、ルードヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827)の唯一のオペラ「フィデリオ」です。

もう1枚天井画



 そして、私は再び開場から100年後に偉大な作曲家がこのメンバーに変わったことに思いを馳せてしまいます。全体のメンバーを見渡しますとフランス人がぐっと多くなり、時代は古典派からロマン派、印象派へと時代が移っています。オーベール、スポンティーニ、マイアベーア、アレヴィらグランド・オペラの作曲家たちは姿を消しましたが、100年前にメンバーに入っていなかったのが不思議だったグルックが入って、更にはバロックのラモーも入っています。単にマルローやシャガールの好き嫌いの問題なのかも知れませんが、100年経って、時代の評価が大きく変わったのだと思います。そして、100年経っても評価が変わらずクラシック界のトップに君臨しているのがモーツァルトとベートーヴェンなのでしょう。これは、さらに60年経った現在でも変わりません。

 

最後にガルニエのショップですが、入ってすぐに右にあり、外からでも入れるような親しみやすい造りになっています。バレエ関係の商品がとても多いのが特徴です。印象派の画家エドガー・ドガ(1834-1917)は、バレエ関係の名画をたくさん残していますが、そのほとんどがガルニエ宮で描かれました。

 

 

執筆:上月 光



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