第123回 ヨーロッパ音楽都市巡り ハイデルベルク その8 三木稔4

第123回 ヨーロッパ音楽都市巡り ハイデルベルク その8 三木稔4

2022年10月04日(火)1:00 PM

 三木稔先生(1930-2011)の日本史連作オペラ、前置きが長くなってしまいましたが、いよいよハイデルベルクで公演を行った第8作の「愛怨」です。

ハイデルベルク歌劇場



 「あいえん」(AI-EN)と読みます。前述の通り台本は、瀬戸内寂聴先生(1922-2021)で、舞台は8世紀の奈良時代。奈良と唐の国、遣唐使が主役で琵琶がテーマのオペラです。このオペラは、2006年に新国立劇場で初演されましたが、2010年2月にハイデルベルクでヨーロッパ初演が行われたのです。私は6月5日の千秋楽を三木先生や瀬戸内先生と一緒に見に行ったのです。何より驚いたのは、日本語上演でドイツ語字幕だったのですが、キャストに日本人が1人も入っていなかったことです。それでもちゃんと日本語として聞き取れたということはまさに驚異的で、キャストとスタッフの努力と意気込みに本当に感心させられました。しかも全8公演満席で、オペラファンにもマスコミにも絶賛されていました。

ハイデルベルク歌劇場入口



簡単なストーリーを紹介します。遣唐使の大野浄人は大和の女帝から、唐の光貴妃が門外不出の秘曲としている琵琶の曲「愛怨」を持ち帰るように厳命を受け、結婚したばかりの愛妻の桜子を残して出発します。しかし、船が遭難してしまい、唐の南部に漂着します。囲碁の卓越した腕前と日本人の朝慶などに助けられながら長安へ行き、光貴妃の誕生日の日に光貴妃と玄照皇帝と会うことができるのです。そこで楊貴妃の侍女で美しい琵琶奏者、柳玲と初めて会いますが、日本に残してきた桜子と瓜二つなのに驚愕します。そして、皇帝は自分の誕生日の囲碁大会の優勝者に柳玲を与えると宣言し、柳玲に横恋慕している囲碁の名人の孟権は狂喜するのです。

実は柳玲の父は雅楽師で、2次前の遣唐使として唐へ渡り結婚し、双子の姉妹を作りますが、柳玲の父が桜子を連れて日本に帰国してしまったために、2人は離ればなれになってしまったということが分かるのです。ちょうどそこに、浄人が死んでしまったと思い、絶望した桜子が自殺してしまったという一報が日本から届くのです。柳玲は、自分の父が光貴妃のために作曲し、自分しか弾くことのできない秘曲「愛怨」を弾くのです。他に伝えたら死刑になるということを知りつつも、自分の双子の妹の夫であり、そして愛が芽生えてしまった浄人のために。それを孟権が盗み見るのですが、囲碁大会の決勝戦で浄人と孟権が対戦し、破れてしまった孟権は、柳玲が浄人に秘曲を伝えたと叫びます。そして、柳玲は用意した毒を煽り、浄人が自分も一緒に死んで行くと歌う愛の2重唱で膜となります。また、秘曲「愛怨」の演奏はもちろん前作「源氏物語」同様、シズカ楊静(ヤンジン)による見事な琵琶でした。

 

執筆:上月 光



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