第121回 ヨーロッパ音楽都市巡り ハイデルベルク その6 三木稔2

第121回 ヨーロッパ音楽都市巡り ハイデルベルク その6 三木稔2

2022年09月20日(火)2:00 PM

 三木稔先生(1930-2011)の日本史連作オペラを第3作までお話ししましたが、続きです。

ハイデルベルク・インフォメーション




「ワカヒメ」 近世の三部作が完成ののち三木先生は、古代、中世へ向かいました。岡山シンフォニーホールの開館記念にオペラを委嘱され、日本書紀の中から古代の吉備国(現在の岡山県+&)のお姫様の記述を発見して、その姫を奪い合うというグランドオペラ的な話を元に、作詞家のなかにし礼(1938-2020)が台本を書きました。1991年に作品が完成、1992年に前述の岡山で初演されました。その後1993年にNHKホールの20周年記念作品として東京でも初演されました。舞台は5世紀の吉備国。王の1人、田狭(たさ)には美しい妃ワカヒメ(稚媛)がいました。大和の国から武の大王(雄略天皇)がやってきて、田狭を朝鮮半島の伽耶、新羅に送り、その隙にワカヒメを大和へ連れ去ってしまったのです。ワカヒメは反乱を起こしますが、結局破れてしまい、帰国した田狭とともに死んで行くという悲劇です。

 

「静と義経」 「ワカヒメ」の稽古中に鎌倉芸術館芸術監督に就任予定だったなかにし礼から開館記念オペラ「静と義経」の作曲を依頼されたものです。当時は3つのオーケストラの曲を書かなければならないなど、多忙を極めていたため固辞しましたが、最終的には受諾してしまったそうです。台本、演出はもちろんなかにし礼で、1993年に同劇場にて初演されました。舞台は12世紀の吉野山、兄頼朝に追われた義経一行が雪の吉野山を越えようとしています。義経は静を京へ返すことにしますが、静は案内人たちに襲われて財宝を奪われ、鎌倉へと送られてしまいます。その後、鎌倉と平泉を舞台に展開しますが、最後はすべてに絶望した静が「愛の旅立ち」のアリアを絶唱して自害してしまいます。静と義経という非常にポピュラーな話に弁慶、さらには今年のNHKの大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の主人公たち、源頼朝、北条政子、梶原景時、和田義盛、大江広元ら有名な実在の人物たちが登場し、絢爛たるグランドオペラへと仕上がりました。

 

オペラ「隅田川+くさびら」 芸団協の30周年記念に制作する能「隅田川」と狂言「くさびら(茸)」という能楽堂で上演する室内オペラの作曲を委嘱されたものです。この2作品は両方とも1幕による悲劇と喜劇という組み合わせで上演しますが、それぞれ単独での上演も可能となっています。大編成のオーケストラと大勢の出演者を必要とする作品が多い三木作品のオペラの中で唯一の室内オペラです。「隅田川」の舞台は、15世紀の墨田川河畔。京都で攫われた子供を探して東京の隅田川に辿り着いた狂女が渡し舟の中で子供がここ死んだことを知るという悲劇です。「くさびら」の舞台は、同じく15世紀で場所は不特定です。所の者の屋敷に大きなキノコが生えてくるので山伏に祈祷を頼みますが、祈れば祈るほどかつてセクハラの犠牲となった女たちがキノコに化けて復讐をするという喜劇です。

 

ハイデルベルク城から市内



執筆:上月 光



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