第32回 ヴェローナ その5 「アレーナ・ディ・ヴェローナ」
第32回 ヨーロッパ音楽都市巡り
ヴェローナ その5
「アレーナ・ディ・ヴェローナ」
ヴェローナ編、ローマ、ミラノ、フィレンツェ、ヴェネツィアよりも長く、長編になってしまいました。いよいよ街のシンボル、アレーナです。古代ローマ時代の円形闘技場ですが、世界最高レヴェルの保存状態で、我々を2000年の昔へいざなってくれます。ローマのコロッセオ、カプアの円形闘技場に次ぎ、世界3番目の規模を誇ります。139m×110mの楕円形の形です。アレーナとはラテン語で砂の意味ですが、古代ローマ時代のグラディエーターの戦いの際に平土間に敷き詰められた砂に由来しています。
横浜アリーナやさいたまスーパーアリーナ、コンサートにおけるアリーナ席なども、もとはこのアレーナと同様の意味で使われています。

ゼッフィレッリのアイーダ カーテンコール風景

アレーナ客席

アレーナスタンド風景
もともと3階の外壁を持っていましたが、12世紀の大地震でほとんど壊れてしまい、今は少しだけしか残っていません。しかし、その内側の2階構造の外壁はほぼ完全な形で残っているのですが、近世ではサーカスなどで使われていました。

左端に見えるのがわずかに残る3層の外壁
地元出身のテノールで、METで活躍するジョヴァンニ・ゼナテッロは、ヴェルディ(1813-1901)の生誕100年に何かしたいと思っていました。1913年6月のある日、彼と彼の奥様でメッツォ・ソプラノのマリア・ゲイ、指揮者のトゥリオ・セラフィンらと一緒に、アレーナのあるブラ広場のレストランのテラスで食事をしていました。彼は、このアレーナの中でオペラが出来ないだろうかと思いつき、みんなでアレーナの中に入り、「アイーダ」1幕冒頭の有名なテノールのアリア「清きアイーダ」を歌ったところ、この巨大な空間でも奇跡的に素晴らしい音響であることが分かったのです。それからたった2ヶ月で準備をして、1913年8月10日にヴェルディの代表作「アイーダ」が上演されました。普段あまり働かないイタリア人ですが、こういう時にミラクルを起こすのもまたイタリア人なのです。公演は空前の大成功を収め、2度の世界大戦の中断はありましたが、世界一の野外音楽祭となり、毎夏開催されるようになりました。
2005年のアレーナのアイーダをラダメス役はホセ・クーラです。
演出はフランコ・ゼッフィレッリです。
https://www.youtube.com/watch?v=TK1ZaP29254
この音楽祭の代名詞のような「アイーダ」ほか、大人数によるスペクタクルな作品、「カルメン」「トゥーランドット」「トスカ」「ナブッコ」などが数多く上演されます。1947年にはマリア・カラス(1923-1977)がポンキエッリの「ラ・ジョコンダ」でイタリア・デビューを飾りました。ちなみにカラスは1949年にヴェローナの実業家メネギーニと結婚し、ヴェローナに住み、ガルダ湖のシルミオーネに別荘を持っていましたが、彼女の海運王オナシスとの恋愛等、幸せな結婚生活は長くは続きませんでした。
3大テノールを始め世界中のオペラ歌手がこの舞台を憧れの目標にしてきましたが、あの巨大な空間でマイクを一切使わないので、本物の歌手でないと声が後ろの席やスタンドまでは届きません。一流のオペラ歌手への登竜門のような舞台となっています。

オケピットもこんなに巨大
16,000人を収容出来、20~30年前は、ドイツなどから数百台の大型バスがで乗り付け、連日連夜満員でしたが、さすがに最近はそうもいかなくなってきたようです。
今では6月下旬から9月初旬まで2か月半に渡り音楽祭が開かれますが、私も35年前から毎年のようにこの音楽祭で感動的なステージを見てきました。
また、アレーナから徒歩10分くらいのところにテアトロ・フィラルモニコという常設のオペラハウスもあります。ここでは小規模のオペラやオペレッタ、コンサートなどが行われますが、馬蹄形の素敵な雰囲気の劇場です。

テアトロ・フィラルモニコ入口
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