第15回 ミラノ その3 「ミラノスカラ座後編 劇場の様子、客席の雰囲気」

第15回 ミラノ その3 「ミラノスカラ座後編 劇場の様子、客席の雰囲気」

2020年08月04日(火)9:30 AM

ヨーロッパ音楽都市巡り

第15回 ミラノ その3
「ミラノスカラ座後編 劇場の様子、客席の雰囲気」

 

劇場の造りは、典型的な馬蹄形の劇場で、外観は何の変哲もありません。しかし、一歩劇場内に入るとそこは別世界。全体が金箔とシックな赤で統一されていて、豪華絢爛な中にも落ち着いた雰囲気を醸し出しています。天井からは約20フィートもの豪華なシャンデリアが下がり、まさに荘厳のひとこと。舞台の上には紅いビロードの緞帳が優雅な曲線を描き、15分刻みのクラシックな時計と赤十字の紋章(ミラノ市のシンボル)が客席を見守ります。

 

1778年当時と同じ外観を保つ正面入り口

 

真黒なスーツをシックに着こなした劇場のスタッフたちの胸にも赤い十字のブローチが輝いており、黒のスーツによくマッチして、ミラノが世界のファッション発信地であることを誇示しているようでとても素敵です。

 

座席は、プラテア(平土間)の上に4層のパルコ(ボックス席)、その上に2層のガレリア(天井桟敷)となっています。5階・6階のガレリア席は、プラテア席やパルコ席と同じ正面入口ではなく、正面左横の狭い階段を延々と登っていかなければなりませんが、正面の席さえ確保できれば、舞台の奥まで見下ろすことができます。また、音響も最高です。座席数は約2,000席ですので、決して小さくはありませんが、広い舞台の奥のほうからでも歌手の声は良く届き、奇蹟の空間を作りだしています。

 

客席。平土間と4層のパルコと2層のガレリア

 

比較的優しい(シビアではない)プラテアやパルコの観客ではなく、真剣にオペラを観に来ているガレリアの観客は、パルマのレッジョ劇場と並んで世界最高レベルの厳しさでしょう。歌手の調子が悪いときなど容赦はありません。どんなにビッグネームであろうとキツいブーイングの嵐です。また、ミラノっ子の趣味に合わない演出の場合にも、ブーイングです。数年前には「アイーダ」でスターテノールのロベルト・アラーニャが、1幕冒頭の有名なアリア「清きアイーダ」で、心無いブーイングを受け、怒って帰ってしまうという事件が起きました。私もあとで録音を聞きましたが、特に失敗したわけでもなく、何か政治的な裏があったのかもしれません。いずれにしても目と耳の超えた観客ばかりですから、常に過去の名演と比較して、近代的な演出や歌手の出来などを批判するのも特徴です。もちろん、批判だけでなく賞賛の拍手も凄いものです。

 

オケピットと舞台-2001年のオテロの時のカーテンコール

椿姫1幕

フィガロの結婚2幕

 

また、曲の終わりでもアリアの終わりでも、オーケストラの最後の音が完全に消えるまで(たとえpppやfffでも)、絶対に拍手を許さないあたり、観客全員がまるで打ち合わせをしたかのようです。これはマエストロ・ムーティが音楽監督時代に徹底してやっていたので、今も引き継がれています。慣れていない人や、本当に感動してしまった聴衆が先走った拍手をしようものなら、「シーッ!シーッ!」の大合唱で、そちらのほうがうるさいくらいなのです(笑)。
 
 それから最後に付属している博物館も必見です。大作曲家や往年の名指揮者、名歌手の身の回りのものや絵画、オペラの衣装や楽器、楽譜など見どころ満載です。

 

パルコのホワイエ-ここは博物館の入場者も見学できます。

 

執筆:上月光

 



«   |   »

Facebook

▲TOPへ戻る