第11回 ローマ その2 「ローマ歌劇場、カヴァレリア・ルスティカーナ、トスカ、マリア・カラス」
ヨーロッパ音楽都市巡り
第11回 ローマ その2
「ローマ歌劇場、カヴァレリア・ルスティカーナ、トスカ、マリア・カラス」
ローマの第2回は、まずオペラハウス、ローマ歌劇場です。

ローマ歌劇場外観
ローマはイタリアの首都でありながら、オペラハウスと呼べるような劇場は、このローマ歌劇場1つだけなのです。2,000年前にコロッセオのようなエンタテイメント施設ががあったにもかかわらず。ローマの人口が300万人弱で、立派なオペラハウスが3つもあるウィーンが人口200万人弱と考えるとやはり寂しい感じです。残念ながら現代のイタリアでは、ミラノを始め経済的に豊かな北イタリアが中心になっているのです。

ローマ歌劇場客席
ローマ歌劇場の前身であるコスタンツィ劇場が出来たのが1880年です。こけら落しはロッシーニの「セミラーミデ」でした。ミラノ・スカラ座などイタリアの一流オペラハウスに比べるとかなり新しいですが、「カヴァレリア・ルスティカーナ」と「トスカ」の初演という輝ける歴史を誇ります。
当時、ミラノの新興楽譜出版社、ソンゾーニョ社は、リコルディ社という圧倒的巨人に対抗るするために、1幕の新作オペラによるコンクールを開催しました。その第2回のコンクールが開かれたのが、1890年ローマのコスタンツィ劇場だったのです。田舎の音楽教師に甘んじていたピエトロ・マスカーニ(1863-1945)が「カヴァレリア・ルスティカーナ」で最優秀賞を獲りますが、60回のカーテンコールを受けるという圧倒的な成功を収めます。この作品はヴェリズモ・オペラの幕開けとなりました。
それから10年後、1900年に同劇場で初演されたのがジャコモ・プッチーニ(1858-1924)の傑作「トスカ」です。物語りの舞台は1800年のナポレオン全盛期のローマで、全幕を通してローマに実在する建築物が舞台となっています。1幕はサンタンドレア・デッラ・ヴァッレ教会。2幕はファルネーゼ宮殿で今はフランス大使館として使われています。そして3幕はローマのシンボルの1つサンタンジェロ城です。

トスカ1幕の舞台サンタンドレア・デッラ・ヴァッレ教会

トスカ3幕の舞台サンタンジェロ城
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舞台が1800、初演が1900年、そして2000年にローマ歌劇場で行われた、指揮がドミンゴ、カヴァラドッシがパヴァロッティという記念すべき「トスカ」
コスタンツィ劇場は、その後1926年にローマ市に買収され、王室歌劇場となりなりました。ムッソリーニによって、アメリカ大恐慌の影響で仕事がなくなったNYメトロポリタン歌劇場の超一流のイタリア人歌手たちをローマに呼び寄せ、名指揮者トゥリオ・セラフィンを音楽監督に招いて、スカラ座に比肩しうるレヴェルの劇場となりました。戦後、現在のローマ歌劇場となりましたが、オペラ史上に残るスキャンダルが起きてしまいます。1958年1月2日全盛期を迎えていた世界のディーヴァ、マリア・カラスを招いてグロンキ大統領臨席のもと「ノルマ」が上演されました。しかし、ガレリア(天井桟敷)の聴衆から「それでも100万リラの声か!」との野次が飛び、カラスが1幕で降りてしまったのです。劇場内は大変な騒ぎとなり、身の危険を感じたカラスは裏口からクイリナーレホテル(現存)に逃げ出しましたが、暴徒たちがホテルを取り囲んだのです。この事件を境にカラスもローマ歌劇場も没落の一途を辿ることになってしまいました。長い間スカラ座のシェフを務めていた巨匠リッカルド・ムーティが2010年に音楽監督に就任し、劇場もかなり復活しましたが、4年足らずで資金難によりムーティは辞任、全団員が解雇されるという前代未聞の騒動となりました。その後、解雇は撤回され、オペラハウスは残りましたが、コロナ騒動もあり、まだまだ予断を許しません。毎年、カラカラ浴場跡の野外劇場でローマ歌劇場主催によるオペラも夏の風物詩となっています。

カラカラ浴場の客席
1585年に創設された世界最古の音楽院、サンタ・チェチーリア国立アカデミーを前身とするイタリアNo.1のオーケストラが、サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団です。2005年から音楽監督を務めるのは、イタリア系イギリス人指揮者のアントニオ・パッパーノ。彼はロンドンのロイヤルオペラの音楽監督も務める超一流の指揮者です。同管弦楽団の本拠地は、ローマ郊外のアウディトリウム音楽公園にある3つのコンサートホールのうち、メインのサンタ・チェチーリアホールです。
また、同音楽院を母体とするサンタ・チェチーリア音楽院もイタリア有数の音楽大学で日本からの留学生も数多く行っています。また、国立アカデミーの卒業生で構成されたイ・ムジチ合奏団は、世界有数のバロック音楽の室内合奏団です。
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世界一有名なヴィヴァルディの「四季」を
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